私達の行く先は天ではなかった。
第零話 この世界について
この世界には能力を持つ者、通称「能力持ち」が数十万人に一人ほど存在する。自覚していない者やまだ能力が発現していないものを含めるともっといるだろうか。
とにかく、先天性後天性に関係なく、能力を持ってしまうものを"彼ら"は「能力持ち」と呼ぶのである。
多くの者は異端視されることを恐れ、仲間内に公言をすることがない。
しかし、彼らにも自らの能力を吐露できる存在がいる。
「妖精」である。
妖精は能力持ち以外には視認不可能である。かつ、意思疎通も能力持ちや他の妖精としか行えない。
つまり、「余計なところに情報が流れる心配がほとんどない」のだ。
もちろん、妖精伝いに他の能力持ちの存在を知ることもあるだろう。
だが、能力持ちが情報を得ても皆、保身の為に口を割ることはない。そうして世界は成り立っているのだ。
だが、その根底を覆す理というのも世の中にはある。
それが妖精による「人間堕ち」である。
「人間堕ち」という固有の儀式を行うことで妖精は能力持ち以外の者ともコンタクトを取る能力を得てしまうのだ。
しかし、その儀式は妖精界でもあまり良くは思われていなかった。
なぜなら、その代償として妖精は無限の命を失い、尋常でない再生力をも失うからである。
また、妖精は飛行能力を持ち、普段は妖精にしか視認・接触できない天上の「妖精界」に住んでいる。
彼らはそこから能力持ちや他の妖精の位置を感知し、気になった能力持ちの元へ文字通り飛んでくるのだ。
しかし、人間堕ちをすれば飛べなくなり、死ぬまで人間達の住む下界で一生を終えることとなる。
それでも尚、物好きな妖精は様々な代償を払ってでも下界に降り立っていた。
ただ、二十年程前に人間堕ちした妖精に起きたトラブルにより、人間堕ちは「禁忌」とされることとなった。
妖精や妖精界の歴史についてはまだ書くことがあるが、本日はこの辺りで筆を置こう。
──高カーストの柿妖精「パーシモ」
この世界について
2020/12/28 up